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吾輩は猫である-第21章

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に口を横へ引張った、これでは文章でも俳句でもない。主人も自分で愛想(あいそ)が尽きたと見えて、そこそこに顔を塗り消してしまった。主人はまた行(ぎょう)を改める。彼の考によると行さえ改めれば詩か賛か語か録か何(なん)かになるだろうとただ宛(あて)もなく考えているらしい。やがて「天然居士は空間を研究し、論語を読み、焼芋(やきいも)を食い、鼻汁(はな)を垂らす人である」と言文一致体で一気呵成(いっきかせい)に書き流した、何となくごたごたした文章である。それから主人はこれを遠懀Г胜收iして、いつになく「ハハハハ面白い」と笑ったが「鼻汁(はな)を垂らすのは、ちと酷(こく)だから消そう」とその句だけへ棒を引く。一本ですむところを二本引き三本引き、奇麗な併行線(へいこうせん)を描(か)く、線がほかの行(ぎょう)まで食(は)み出しても構わず引いている。線が八本並んでもあとの句が出来ないと見えて、今度は筆を捨てて髭(ひげ)を捻(ひね)って見る。文章を髭から捻り出して御覧に入れますと云う見幕(けんまく)で猛烈に捻ってはねじ上げ、ねじ下ろしているところへ、茶の間から妻君(さいくん)が出て来てぴたりと主人の鼻の先へ坐(す)わる。「あなたちょっと」と呼ぶ。「なんだ」と主人は水中で銅鑼(どら)を叩(たた)くような声を出す。返事が気に入らないと見えて妻君はまた「あなたちょっと」と出直す。「なんだよ」と今度は鼻の穴へ親指と人さし指を入れて鼻毛をぐっと抜く。「今月はちっと足りませんが……」「足りんはずはない、医者へも薬礼はすましたし、本屋へも先月払ったじゃないか。今月は余らなければならん」とすまして抜き取った鼻毛を天下の奇観のごとく眺(なが)めている。「それでもあなたが御飯を召し上らんで麺麭(パン)を御食(おた)べになったり、ジャムを御舐(おな)めになるものですから」「元来ジャムは幾缶(いくかん)舐めたのかい」「今月は八つ入(い)りましたよ」「八つ? そんなに舐めた覚えはない」「あなたばかりじゃありません、子供も舐めます」「いくら舐めたって五六円くらいなものだ」と主人は平気な顔で鼻毛を一本一本丁寧に原稿紙の上へ植付ける。肉が付いているのでぴんと針を立てたごとくに立つ。主人は思わぬ発見をして感じ入った体(てい)で、ふっと吹いて見る。粘着力(ねんちゃくりょく)が強いので決して飛ばない。「いやに頑固(がんこ)だな」と主人は一生懸命に吹く。「ジャムばかりじゃないんです、ほかに買わなけりゃ、ならない物もあります」と妻君は大(おおい)に不平な気色(けしき)を両睿Г藵q(みなぎ)らす。「あるかも知れないさ」と主人はまた指を突っ込んでぐいと鼻毛を抜く。赤いのや、い韦洹⒎N々の色が交(まじ)る中に一本真白なのがある。大に驚いた様子で穴の開(あ)くほど眺めていた主人は指の股へ挟んだまま、その鼻毛を妻君の顔の前へ出す。「あら、いやだ」と妻君は顔をしかめて、主人の手を突き戻す。「ちょっと見ろ、鼻毛の白髪(しらが)だ」と主人は大に感動した様子である。さすがの妻君も笑いながら茶の間へ這入(はい)る。経済問睿隙夏瞍筏郡椁筏ぁV魅摔悉蓼刻烊痪邮浚à皮螭亭螭长福─巳·陸遥à─搿

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三 … 2

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鼻毛で妻君を追払った主人は、まずこれで安心と云わぬばかりに鼻毛を抜いては原稿をかこうと焦(あせ)る体(てい)であるがなかなか筆は動かない。「焼芋を食うも蛇足(だそく)だ、割愛(かつあい)しよう」とついにこの句も抹殺(まっさつ)する。「香一 もあまり唐突(とうとつ)だから已(や)めろ」と惜気もなく筆誅(ひっちゅう)する。余す所は「天然居士は空間を研究し論語を読む人である」と云う一句になってしまった。主人はこれでは何だか簡単過ぎるようだなと考えていたが、ええ面倒臭い、文章は御廃(おはい)しにして、銘だけにしろと、筆を十文字に摚Вà栅耄─盲圃寮垽紊悉叵率证饰娜嘶翁mを勢よくかく。せっかくの苦心も一字残らず落第となった。それから裏を返して「空間に生れ、空間を究(きわ)め、空間に死す。空たり間たり天然居士(てんねんこじ)噫(ああ)」と意味不明な語を連(つら)ねているところへ例のごとく迷亭が這入(はい)って来る。迷亭は人の家(うち)も自分の家も同じものと心得ているのか案内も乞わず、ずかずか上ってくる、のみならず時には勝手口から飄然(ひょうぜん)と舞い込む事もある、心配、遠懀А菁妫à停⒖鄤骸ⅳ蛏欷霑rどこかへ振り落した男である。

「また巨人引力かね」と立ったまま主人に聞く。「そう、いつでも巨人引力ばかり書いてはおらんさ。天然居士の墓銘を撰(せん)しているところなんだ」と大袈裟(おおげさ)な事を云う。「天然居士と云うなあやはり偶然童子のような戒名かね」と迷亭は不相変(あいかわらず)出鱈目(でたらめ)を云う。「偶然童子と云うのもあるのかい」「なに有りゃしないがまずその見当(けんとう)だろうと思っていらあね」「偶然童子と云うのは僕の知ったものじゃないようだが天然居士と云うのは、君の知ってる男だぜ」「一体だれが天然居士なんて名を付けてすましているんだい」「例の曾呂崎(そろさき)の事だ。卒業して大学院へ這入って空間論と云う睿郡茄芯郡筏皮い郡ⅳⅳ蓼昝銖姢愤^ぎて腹膜炎で死んでしまった。曾呂崎はあれでも僕の親友なんだからな」「親友でもいいさ、決して悪いと云やしない。しかしその曾呂崎を天然居士に変化させたのは一体誰の所作(しょさ)だい」「僕さ、僕がつけてやったんだ。元来坊主のつける戒名ほど俗なものは無いからな」と天然居士はよほど雅(が)な名のように自慢する。迷亭は笑いながら「まあその墓碑銘(ぼひめい)と云う奴を見せ給え」と原稿を取り上げて「何だ……空間に生れ、空間を究(きわ)め、空間に死す。空たり間たり天然居士噫(ああ)」と大きな声で読み上(あげ)る。「なるほどこりゃあ善(い)い、天然居士相当のところだ」主人は嬉しそうに「善いだろう」と云う。「この墓銘(ぼめい)を沢庵石(たくあんいし)へ彫(ほ)り付けて本堂の裏手へ力石(ちからいし)のように抛(ほう)り出して置くんだね。雅(が)でいいや、天然居士も浮かばれる訳だ」「僕もそうしようと思っているのさ」と主人は至極(しごく)真面目に答えたが「僕あちょっと失敬するよ、じき帰るから猫にでもからかっていてくれ給え」と迷亭の返事も待たず風然(ふうぜん)と出て行く。

計らずも迷亭先生の接待掛りを命ぜられて無愛想(ぶあいそ)な顔もしていられないから、ニャ衰悌‘と愛嬌(あいきょう)を振り蒔(ま)いて膝(ひざ)の上へ這(は)い上(あが)って見た。すると迷亭は「イヨ蠓郑à坤い郑┓剩à栅龋─盲郡省ⅳ嗓臁工葻o作法(ぶさほう)にも吾輩の襟髪(えりがみ)を攫(つか)んで宙へ釣るす。「あと足をこうぶら下げては、鼠(ねずみ)は取れそうもない、……どうです奥さんこの猫は鼠を捕りますかね」と吾輩ばかりでは不足だと見えて、隣りの室(へや)の妻君に話しかける。「鼠どころじゃございません。御雑煮(おぞうに)を食べて踊りをおどるんですもの」と妻君は飛んだところで旧悪を暴(あば)く。吾輩は宙仯à沥澶Δ危─辘颏筏胜椁馍佟Oりが悪かった。迷亭はまだ吾輩を卸(おろ)してくれない。「なるほど踊りでもおどりそうな顔だ。奥さんこの猫は油断のならない相好(そうごう)ですぜ。昔(むか)しの草双紙(くさぞうし)にある猫又(ねこまた)に似ていますよ」と勝手な事を言いながら、しきりに細君(さいくん
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